
地の利を活かしたこだわりの酒造り
杜氏のこだわり
酒造りに欠かせない杜氏の経験とカン。
そして、うまい酒造りの決め手は職人の“チームワーク”

私が追い求める酒は、高望みするときりがないですが、味があるけど後口に残らないスッキリとした軽い酒、雑味がなく飽きない酒です。
毎年、同じ酒米を使っても、水分含有量や成分などが微妙に違います。
さらに湿度や温度も変化しますから、過去のデータを基にしつつ、酵母や麹菌が働きやすい状況を整えなければいけない。
これを実現するためには、科学的な働きをある程度知っておく必要があり、単に経験とカンだけでやればよいというわけではありません。
ただ、酒の味、香りに大きな影響を与える麹づくりなどでは、科学的なデータだけでは測れない「杜氏の経験」を活かし、杜氏はスタッフ全員にそれを伝え、お互いの意思疎通を密にし、酒造工程に反映させていきます。
うまい酒造りに一番必要なのはチームワークです。
朝から晩まで同じ顔をつき合わせて、一致団結しながら1つの大きな目標に向かって進んでいくわけですから。
自分たちの考えをきちんと話し合い、それを麹づくりやもろみづくりに反映させています。
酒造りの標準的な流れは、本を読めば一通りわかります。
特に、いまは酒造りを大学などで学ぶ機会もありますから、今の若い人たちは私よりも科学的な酒造りをずっと理解しているでしょう。
ただ、理論では成り立たない部分こそが、酒造りの奥深さであり、杜氏のこだわりです。
酒造りの工程
Manufacturing process
北アルプスの麓に位置する安曇野は、名水百選に選ばれた「安曇野わさび田湧水群」がある自然豊かな水の郷です。
北アルプスに降った雨や雪が最大高低差2500メートルもの高地から地下水となった、清らかな水を仕込水として使用しています。

洗米〜浸漬
洗米はうまい酒の土台づくり。
米の浸漬時間は秒単位の勝負。
料理でたとえるなら材料の下ごしらえ。
大吟醸の醸造では、玄米は元の大きさの40%以下にまで削られ、心白とよばれる半透明の小さな真珠のような良質のでんぷんのかたまりが用いられます。
この洗米のタイミングは実に厳密。
心白にヒビが入らぬよう、細心の注意を払いながら手洗いでていねいに米ぬかを洗い落とします。
洗い場に緊張が走り、時計を見ながらカウントダウンする杜氏の合図で、全員の手の動きが見事にそろう瞬間です。
洗米が終わると、浸漬タンクの中で米に水を浸透させます。
米の水の吸い具合は毎年微妙に異なるため、杜氏は過去のデータや長年の経験に基づいた最適の水量を決定し、秒単位で浸漬時間を調整。
この吸水量が、次の蒸米づくりの良し悪しを左右するのです。


蒸し
蒸しは原料米を加工する上で非常に重要な工程です。
蒸しは、生米のデンプンは酵素が作用しにくいため、蒸すことでデンプンをα化し、麹菌の酵素や酵母が利用できる状態にします。
また、理想的な蒸米は「外硬内軟」、外側がしっかり内部は柔らかい状態で、麹菌が米の中まで菌糸を伸ばしやすく溶けすぎず、発酵を安定させます。
この「蒸し」の良し悪しが、この後の発酵工程に大きく影響する重要な役割を担っています。



製麹〜酛立て
米のでんぷんを糖化する「一麹」。
もろみの発酵を促す「二酛(もと)」酒造には「一麹、二酛(もと)、三造り」という言葉があります。
麹は蒸米に麹菌をふりかけて増殖させたもので、米のでんぷんを糖化させる麹の出来・不出来は、酒質に大きな影響を与えます。
さらに、この麹に蒸米、水、酵母を加えてつくる酒母は、もろみの発酵を促す酵母を大量に培養したもの。
糖分をアルコールに変える酒母はうまい酒造りには欠かせず、文字通り「酒の母」と言われています。
特に大吟醸の場合は、低温発酵で長期にわたって微生物を扱うため、空気中の雑菌が繁殖して酵母の増殖に失敗し、腐造する危険性もあるのです。
杜氏は細心の注意を払いながら、麹づくりに適したぎりぎりの温度管理を徹底させています。



仕込み〜発酵
味の決め手は「三段仕込み」。
もろみは、蔵の特徴の証。酒母に蒸米、麹、水を加えて攪拌し「もろみ」をつくる仕込みは、「三段仕込み」と呼ばれる酒造過程です。
仕込みは、添仕込、仲仕込、留仕込の3回に分けてブレンドされる三段仕込が一般的。
添仕込〜仲仕込の間には1日「踊り」と呼ばれる休息期間がはさまれ、雑菌の繁殖を抑えつつ、計4日間で酵母の繁殖が促されます。
もろみの仕込みにおいては、酒母、蒸米、麹、水の配合比率の調整によって、酒の風味・特徴が決定されます。
つまり、もろみは酒蔵の味の象徴であり、杜氏の酒づくりの対する意気込みやこだわりの結晶と言えるでしょう。
仕込みが完了したもろみは早くて約20日間、遅くても約40日ほどで発酵が終了し、これを搾ることで原酒ができ上がります。



上槽〜濾過・火入れ〜瓶詰め
絞りたての新酒の香りに酔う。
銘酒誕生の瞬間に味わう極上の喜び。
いよいよ酒造りの最終段階です。
発酵が終了したもろみをしぼり、新酒(生酒)と酒粕に分ける作業は「上槽」と呼ばれます。
しぼりたての新酒は、ほんのりと美しい黄金色の輝きを放ち、荒削りながらも新鮮な香りと若々しい味わいが特徴。
「生貯」の場合は、一足飛びにびん詰め過程に進んで加熱・殺菌されますが、通常の酒造りでは雑味の素となる諸成分をろ過します。
さらに、防腐のために加熱処理(火入れ)を施し、タンクに貯蔵し熟成。
これが原酒となり、各製品ごとに仕込水と同じ水を加えて調整されます(加水調整を行わない酒は、原酒として商品化)。
最後のびん詰め過程で再び加熱・殺菌処理を施し、安全かつ高品質の商品を出荷します。


